辞めてしまえばすべて終わり。熱い闘いを繰り広げている最中「室伏アーカイブカフェ”shy”」オーナー 渡辺喜美子
ダンサー・室伏鴻氏の生前は同氏のマネージャーを務め、2015年のツアー中、メキシコで同氏が急逝した後は室伏鴻アーカイブのディレクターとして活動している。2016年に室伏氏の蔵書、資料を納めたスペースとして東京都新宿区で「室伏鴻アーカイブカフェ“Shy”」をオープン。また、WEBサイト「Where is Ko?」を立ち上げ、室伏氏の47年間にわたる活動に関する資料・情報などをインターネット上で公開。カフェとWEBサイトを国内外の研究者による「室伏リサーチ」の拠点とし、継続的に情報を発信している。
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辞めてしまえばすべて終わり。実は熱い闘いを繰り広げている最中です
このお仕事をされる上での信条を教えてください。
「室伏鴻アーカイブカフェ“Shy”」では、室伏鴻の蔵書や資料など、47年間に渡る活動内容を紙媒体で見ることができます。どなたの来店も歓迎しますので、なるべく多くの方、特に若い方たちにこれらの資料に触れてもらい、いろんなことを考えるきっかけになっていただけると嬉しいですね。
また、このアーカイブは残された私たちにとって「室伏鴻のダンスの思想を未来に繋ぐことが可能か?」という課題への挑戦でもあります。カフェの運営は経営的に見れば苦しい面もありますが、辞めてしまえばすべて終わります。もしここで辞めてしまえば「お金がなければ何も出来ない」ことを受け入れて認めてしまうことになるでしょう。そうではなく、違うやり方があるということを証明したい、自分のやり方で行けるところまで挑戦したい、という思いがあります。こう見えて、実は熱い闘いを繰り広げている最中なんですよ(笑)。
でもその反面、今は「最初から負けるとわかっている闘いをするのも悪くない」とも感じています。例えば自分の意思や考えを変えてまで経営的に成功したとしても、それは私にとって負けと同じ。経営者としてのポジション、価値観が違うので、商売を重要視している方にはまったく役に立たないお話かもしれません(笑)。ただ、こういう考え方もあり、非常に個性的なサンプルとして、頭の片隅にでも置いていただければと思います。
人生は日々実験、室伏氏の思考や意図に触れることで「強さ」を得られる気がする
このお仕事を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
私が室伏鴻のマネージャーを務めることになったのは、本当に成り行き上で、たまたまの出来事でした。
もう亡くなっている方なので、室伏さんのことを今更広めたいという思いがあるのではないのですが、この場所で彼の思考や意図などに触れ合った人たちはひとつの「強度、強さ」を手にするような気がしています。その強さが皆さんの中でそれぞれ活かされればいいのかな、と感じています。個人的なテーマとして「人生は日々実験」だと捉えています。生きていること、一刻一刻を実験とした時、その実験に対しての「強度、強さ」というものを得られるかもしれません。
室伏さん自身がとてもラディカルな存在!辞めたくなったことは一度もありません
「このお仕事を続けていて良かった」と思うのはどういった時でしょうか?
アーカイブによって「室伏鴻」という一人のダンサーを通して、彼の死後もこのようにいろいろな方がそれぞれの専門分野で思考を深めることができるようになっています。
また、普通の生活を送っていれば私が出会わなかっただろうという人たちに会うことができて、通常では知り得なかった知識、考えなかった思考を得ることができ、大変ありがたく感じています
とにかく室伏さん自身がとてもラディカルな存在だったので、途中で辞めたくなったりしたことはまったくありませんでした。一緒に仕事をさせていただいた経験は非常に貴重で、とてもおもしろかったですね。
「負けるとわかっている挑戦」をどこまで続けることができるか!?
今後の目標を教えてください。
造形作家・岡崎乾二郎氏の「“Things” never die. It only changes its form.」という言葉があるのですが、私にとってその言葉は「“Murobushi” never die. It only changes its form.」と置き換えることができます。「室伏鴻」というダンサーがいて、死後にトランスフォームしたことでこの場所がある……。そしてデジタルアーカイブがあり、それらをどのようにトランスフォームさせていくかをゆっくり探求していこうと思っています。勝ち負けの概念ではなく、どのように物事をトランスフォームさせていくことが可能なのか、負けるとわかっている挑戦をどこまで続けることができるかの実験だと考えています。
最後にこのページをご覧になっている方へのメッセージをお願いします。
私達の社会というのは言葉によって成り立っています。ただし、例えば「踊り」というものにはそこに言葉がないのです。つまりその事自体がすでに政治性などから外れた表現だということです。
例えば「味」に関して「美味しい」などの感覚はすべて教育されたものですが、皆が「甘くて美味しい」という中で、たった一人だけ自分のテイストを変えて「苦い」と言ったとします。それは、「甘い」という前提のもとに物事が成り立っている社会にとってはとても危険なこと。でもそこで自分のテイストをスイッチできるのが「アーティスト」だと私は思っています。そういった考え方、見方に興味があり、もっと深く考えたい、と思う方たちにとって「室伏鴻アーカイブカフェ“Shy”」は、非常にエキサイティングな場所であると思います。
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