【海外レポ連載】「働き方・生き方・幸せ」を見つける北欧の教育制度 <連載3>
2019/02/09
はじめに
新年あけましておめでとうございます。昨年は、拙い文章のなかここまでお付き合いいただきありがとうございます。
昨年は、私の北欧留学経験を通して、日本の社会でどのようにしたら「自分の幸せな状態」を見つけることができるのかを、北欧社会をモデルに学ぼうとしていました。すると、どうやら教育方法においてさえも重視するものの違いがあることがわかりました。
それは、北欧では「自らのしたいこと(学びたいこと)を見つけ、それから大学に通う」。そしてどうやら、その学びたいこと「研究対象」を見つけて実行するプロセスそのものが、「自分が幸せだと思える状態」を作り上げていくようです。
一方で、日本ではその研究対象を見つけないまま、大学に進学し、就職しているケースが多いようです。現在就職活動中の私も、実際にちゃんと人生でなにを成し遂げたかったのかを、大学2年の後半になってからやっと考え始めたような状態になってしまっています。
今回は、私がスウェーデンに留学していた際のクラスメートが偶然日本に旅行で来ていたので、実際に彼の家族や学業への考え方について聞いてきたので、それを紹介したうえで、その連載をまとめていこうと思います。
スウェーデンの学生の人生観
今回、久しぶりに再会したスウェーデン人の友人の名前は、アクセルといいます。私は高校のころ理系の学生で、スウェーデンに留学した際も理系のクラスに配属されました。アクセルとはクラスメートで、毎日他の学生とともに昼食をとったり、昼休みにサッカーをしたりしていました。
アクセルは高校時代からすでに大学でシステム工学を学びたいといっており、高校卒業後すぐにスウェーデンのリンショーピング大学に進みました。昨年は、授業の一環で、オーストラリアのシドニーに半年間留学していたそうです。
アクセルはクラスの中で唯一高校の後に時間を取らずに、大学進学をしました。彼にその理由を聞くと、やはり「高校のときからやりたかったことを、そのまま続けているから」と言っていました。一方で、同じクラスメートのユリウスという男の子は、高校卒業後スウェーデンにあるバーで3年間アルバイトをしたのちに、今年から大学に行くそうです。
こういった柔軟性が北欧諸国の人々の人生観に根付いていると考えられます。実際、アクセルに彼の家族がどのように生活しているかも聞いてみました。
すると、彼の母は、アクセルを産んだのちは、仕事量を半減させ、かつ彼の父も育児休暇をとることによって、子育てと生活のバランスをとっていたそうです。スウェーデンでは、子育てに関する法律で「Föräldraledighet」、いわゆる「育児休暇」の制度が他のどの国よりも進んでおり、また国民の意識的な部分もそれに合わせて変化してきていると思います。スウェーデンでは、男性の9割近くが育児休暇を取得します。それぞれの育児休暇も、こどもが一人増えるたびに期間が延長されるため、こどもが増えることが家庭にとって負担になりづらいようになっています。
つまり、スウェーデンでは、「自分のしたいこと」を見つけるために学生生活を送ったり、進学を遅らせたりすることが柔軟にでき、かつ、「自分のしたいこと」をみつけて就業しても、働き方を柔軟に変えられます。人生のイベントに対する柔軟性を国が保証しているために、各人自由に思い思いの人生を過ごすわけです。結果、幸福度ランキングなどにも反映されているのではないでしょうか。
これだけ読むと、スウェーデンにはお宝でもあって、湧き出るように資材が確保されていると思われるかもしれませんが、そうではありません。スウェーデンでは、少ない財源を効果的に、合理的に必要な場所に使われるようにしている、というだけです。
「世界経済のネタ帳」によると、対GDP比のスウェーデンの国債、つまり借金の割合は徐々に減少していますが、概ね平行線です。一方の日本では、対GDP比で年々増加しているのみです。日本はGDPに対して出費が多すぎると言えます。その割に、個人の生活に大きな変化が起きていると感じる人は少ないのではないでしょうか。これは、個人のニーズに対して、得られるものが少ないためにそうなっているのではないでしょうか。幸せは、必要なものや欲しいものが満たされ、不満な点が解消されていくにつれ、上昇していくと思います。債務だけ増えて、個人のニーズが満たされないのでは、不満が募るのみですよね。スウェーデンは国の支出が、個人のニーズと合致しているために、幸福度が上昇しているのではないでしょうか。
理由は、単純に民主主義の構造の差にあると考えます。日本と違い、スウェーデンでは地方分権が進んでおり、地方によって所得税があり、地方議会の裁量も大きいです。さらに、地方議会の議員は議員を副業として行なっている地方の住民であり、国民(市民)の声が直接議会に届けられるような構造になっています。したがって、政策に対する国民の不満が出づらい状況が作られています。
このようなシステムは日本のように地方においてもあまりにも人口が多いような国では、現実的ではないでしょう。北欧諸国はそれぞれ5百万から9百万程度の人口で、それが日本よりも広い国土に広がっています。人口密度は日本の20分の一程度です。したがって、日本の政策は独自のものを作っていく必要があります。
では、日本ではどうするのか
では、日本はどうでしょうか。北欧に比べ、制度自体は整ってきてはいるものの、産休の消化率や、そもそも有休消化率やその長さでさえも他の先進国と比べ圧倒的に低いのが現状です。ただ、制度的な部分の不満点は、人口の差やGDPの規模からいっても、北欧と全く同じようになるのは、まず難しいと、先ほどの地方議会の構造などから見て、お分かりいただけると思います。
このような問題に関しては、若者の政治離れやそもそも政府に対する信頼感の希薄さというのも関係してくるかもしれません。しかし、すこし楽観的ではあるものの、今後の日本では、自分の行動をどんどん柔軟に変えていくことが大事だと思います。国の政策ではなく、とりあえずは、個人でできることから実践していくことが大事です。自ら行動を起こし、政策における不満などは、個人間で議論していくことが、政策を変えていくための第一歩です。
なので、まずは「自分が幸せだと思える状態」をしっかり整理して、直接的か間接的でも自分のしたいことに関わって人生を柔軟に変えていくことが、北欧的幸せな状態に近いのかもしれません。
転職や起業はいままでの日本では、あまり盛んに行われてこなかったかもしれません。もともと文化のような形で根付いていたものですが、最近は転職が盛んに行われたり、起業を決起する方も増えてきています。
自分のしたいことに「なんで」と7回ほど聞くと、自分の根本がわかるとよく言われています。自分の「最高に幸せだと思える状態」を見つけ、積極的に行動を進めていってください。
おわりに
今回まで3回に渡り、駄文にお付き合いいただき有り難うございました。私がスウェーデン・デンマークで経験したことと、今の日本に対する疑問点を投げ続けた結果を合わせて、皆さんに何かをお届けできていたらと思います。
「自分が幸せだと思える状態」をゆっくりでも見つけ、見つかったら自信をもってどんどんトライしていきましょう!
著者プロフィール
矢野心平
早稲田大学国際教養学部3年生。中学時代から日本の労働環境について興味を持ち始め、働き方改革や労働問題について学習を始める。高校2年次にスウェーデンに1年間、大学入学後はデンマークのコペンハーゲン大学に1年間留学し、人材資源管理や社会保障制度について学ぶ。帰国後の現在も、大学で北欧政治を学んでいる。